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12+1~treize/01【Ansur*Thorn】

※この小説は、画集『12+1~treize【創造】』(完売済)に収録されたものを、完売後一定期間(約三年)を開けた後にWeb掲載するものです。

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『treize』は当初きっちりと話を固めてしまうのではなく、想像し創造する余地を持たせる作品にしようとしていた為に、treizeの世界観やキャラクターの人物像と関係性を伝えるように書いたお話です。

キャラクターについては、イラストの記事で少し説明してあります。

【創造】【維持】【破壊】

今回は、画集の第一集【創造】に登場するAnsurとThornのお話…



作:琥誉啓人



一瞬で何かが掠め、過ぎる感触

左の上腕がそれを感じ取った、と直ぐに全身が切り替わる。一秒と遅れず付いて来る意識は、敵を認識するとほぼ同時に我が身の状態を確認する。即ち、左腕の負傷具合、得物の使用可否、周辺の状況、そして、背後に回した連れ合いのことを…







「相変わらず、甘いわね」

ほんの僅かに乱れた呼吸が急速に引いて行くのと重なって耳に届いたのは、その場に余りにも不似合いな、どこまでも透明な声。
知らず背を伸ばし、着乱れた着衣を正せば、仕立ては良いが身分には相応しくない、しかし妙に着心地の良いジャケットの左腕に空いた穴が気になった。無意識の内に不穏な気配に反応した体が、剣の切っ先を逃れる方向に動いた為に、その下の肉を傷付けることは無かった様だ。

「まぁ、そう言うなよ」

ゆっくりと振り向けば、衣服こそ下流の貴族が身に付ける程のものだが、何処か淀んだ路地裏の空気を寄せ付けない怜悧な美しさを持つ陶器人形が立っていた。

否、

その瞳は真っすぐに心の底までをも見抜く力強さを持つ、人を導く人のものだ。

「折角のデートを台無しにされたくないじゃないか」

殊更道化に似せて肩を竦めて見せれば、繊細な絵筆による一掃けの様な吊り気味の眉が片方、僅かに上げられた。

「馬鹿なことを言わないで」

抑揚のない、しかし耳に残るアルトの声は、何を否定したものか。

触れることすら叶わないと思わせるその象牙の肌の感触を、かつてこの両手は知っていた。

「馬鹿、ね」

別れの時、昂ぶった憎しみも愛情も無かった。

いや、抑えていなければ無理矢理にでも、心とは裏腹に離れて行く体と体を繋ぎ止めようと、その細い肢体を抱き締めていただろう。それをさせなかったのは、お互いの果たすべきもの、守らなければならないものの大きさ、重さを知っていたからだ。
…悲しい程に。

「私なら、殺したわ」

緩慢な瞬き程の間、過去の苦く甘い記憶に溶けた思考を呼び戻したのは、冷たい口調に似合いの温度を感じさせない声音。

男達の中に在っても、全く引けを取らない剣の腕は、並々ならぬ修練の果てに手に入れたものだとは、細身ながら引き締まった肉体を見れば容易に想像が出来る。
そして、それは我が身の価値を知り、「生きる」ことへの彼女の真摯な姿勢を映したものだ。だからこそ、この人であることすら疑わしく思える美しさを持つ女性は、ただ祭られるだけの飾り人形にはならない。
現に、こうして隣国の街へ供も付けずに忍んで来る程だ。
かく言う自分もしばしば民の中に紛れ込み、お陰でこうした偶然の巡り合わせにも会う訳だが。
いずれにしろ、職務を離れた場所での詮索はしないことが暗黙の了解だ。
昔、まだ担う肩書きも今ほどの重さを持たなかった頃ですら、着慣れない衣服に身を包み、高揚感に任せて普段よりも大きめの笑い声を上げながら歩いた街中で、繋いだ手の平、その上の呆れたような色を映す瞳の奥にある真実を、全て暴こうとは思わなかった。

…思えなかった。

「…ただの暴漢さ」

にやり

口元を引き上げて笑みを作って見せれば、僅かに片眉が上がる。感情を読み取ることが難しいと言われる彼女の表情の動きは、気付かれないだけで十分に分かり易い。

「貴方に斬り掛かったわ」

それだけ、で。

痺れ、重力に任せて下がった腕を抱えて逃げ去る男の姿は酷く不恰好で、訓練を受けた刺客のそれではなかった。恐らく下級貴族と思い込んだ自分の懐を狙った強盗まがいだろう。

「ああ…」

この、手、を…

自分に切っ先を向けた剣を叩き落とした感触のみが残る右手に視線を落とす。鞘に収めた剣が血に錆びることが無いと言えば嘘になるけれど。



安物の血で、汚す、訳には行かない



静かに目を閉じれば、浮かんで来る人々の顔、自分を慕う臣下達、絶対の信頼を置く親友…

どれだけの人の手が、この手の代わりに血に濡れていることか。



この、手、を汚さない為に



それでも


「君に切っ先が向けられた時は、俺も迷わずこの手を汚すさ」


殊更静かに歩み寄り、伸ばした手が触れた先には、スカートの中、太腿辺りに隠された短剣の柄を、強く強く握りしめた白い手。
優しく、壊れ物に触れる様に、包み込む。口に出すことを許されない想いが、重なる箇所から伝わるように、願いながら。そっと。

an_th.jpg

「馬鹿なことを言わないで」

今日二度目のその台詞。しかし今度は僅かに甘い揺れを含んでいたとは、都合の良い聞き間違いだろうか。
強過ぎない力で振り解こうとする手を、意志を込めて握り直す。

「そう馬鹿馬鹿言うなよ」

不満げに顰められた眉根に、思わず唇を寄せそうになった自分の馬鹿さ加減は十分自覚しているのだから…

「折角こうして会えたんだ。一杯付き合えよ」

もう一度、繋いだ手に力を込めれば、強張っていた細い指から力が抜ける。

普段は秘められた、君の中の優しさが伝わって来る、貴重な一瞬

「…奢られてあげるわ」

諦めの溜息に上がる口角。

「有り難き幸せ」

そのまま、滑らかな手の甲に口付けを落せば、咄嗟に抗議が出そうになる唇。それは見ない振りをして、直ぐ様彼女好みの酒を出す店の方へと歩き出す。

歩幅の差の分、街並を楽しむ様に歩みを落とせば、先を行かれることを嫌う人が燐とした姿勢で並んできた。



束の間の休息が終われば、また、お互いの在るべき場所に帰る二人。





だからこそ、今は…




~fin.~
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[ 2009/09/19 22:41 ] オリジナル-小説 | Track back(-) | Comment(-)








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